人を守るためなら、機械だけが、行けばいい。

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人を守るためなら、機械だけが、行けばいい。

滑走路へと高度を下げる窓に映ったのは、果てのない砂漠だった。首都サンティアゴから空路で一時間半。内陸部の街、カラマ。実に1300年も前から、先住民が銅の採掘をはじめていたとされる地。現在は、「世界最大の露天掘り銅鉱山」で知られている。

幅四キロ、奥行き三キロ。深さ一キロ。全景を見渡す場所に立つと、「穴」は、数字以上に見る者を圧倒する。この山で、世界のどの鉱山でも行われていない最先端の実験が、行われていた。働く人の命を守る実験。崖崩れが起きる危険な現場で、人を乗せることなく働く「無人ダンプシステム」の実験である。無人でありながら、思い通りに走り、止まり、曲がり、土砂を積む。障害物を感知すれば、自在に避けて目的地を目指す。まるで意志を持った生き物のように。「高精度GPS位置情報システム」「ミリ波レーダ」「光ファイバージャイロ」…最先端を高度に組み合わせたこのシステムは、タイヤの直径だけで、三・八メートルを誇る世界最大級のダンプトラックに搭載されている。

無人ダンプトラックが、この山に来たのは、2004年夏。しかし、現場は、甘くはなかった。掘るたびに日々変化する地形。過酷な傾斜。滑りやすい砂漠の土。そして、なにより安全走行を実現すること。想像以上に複雑で、精度の高い走行能力が求められた。鉱山スタッフからの厳しい声。度重なるディスカッション。日米はもとより世界中のコマツの研究室から頭脳が集まり、新たなアイデアが生まれた。「世界で初めての実験。この現場で、解決するしかない」。その思いが、スタッフを動かし、改良が重ねられてきた。走行制御の性能は、十センチの精度にまで高まった。そして、第一段階の走行試験が終了し、稼動がはじまった。

「無人の建設機械が当たり前になる日が、いつかくる。それは、危険な現場がなくなることを意味するはずです」。コマツチリのスタッフが、静かにつぶやいた。自分に言い聞かせるような、そんな言葉だった。

中央コントロール室の脇に、石造りの小さな建造物と井戸の跡があった。インカ帝国の時代、人々が暮らし、銅を採掘してきた名残りだという。最先端の技術を誇る今日と数百年前のある日が、一瞬、つながった気がした。アンデスの山が、私たちを見守っている。万年雪を戴くその姿は、きっと、その頃と、変わっていない。

人のための
道具だから。
社会のための
道具だから。

日本経済新聞    2006年10月31日 (火)
日刊工業新聞    2007年1月22日 (月)
日刊産業新聞    2007年1月22日 (月)
フジサンケイビジネスアイ    2007年1月22日 (月)
読売新聞    2007年1月28日 (日)
北國新聞    2007年2月24日 (土)
朝日新聞    2007年2月25日 (日)
毎日新聞    2007年2月25日 (日)