働き者の大きな手は、よく汚れていて、美しかった。

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働き者の大きな手は、よく汚れていて、美しかった。

インドネシア カリマンタン島にて。

かつては道も、町も、空港もなかった。コンビニやファミレスは、いまもない。インドネシア カリマンタン島。世界で3番目に大きな島の、小さな町。旅行ガイドブックには載っていない、赤道直下の町。小さなプロペラ機が降り立ったのは、そんな場所だった。空港の名前は、インドネシア語で「石炭の岬」。石炭鉱山のために、生まれた町である。

この地で汗を流すコマツは、いまでは160台にものぼる。巨大な手で土を掘るのはPC3000。近くを走るクルマと比べると、その大きさが分かってもらえるだろうか。全長16m、高さ9mを超える油圧ショベルである。岩を砕く低い音が響く。鋭い爪が、大地に刺さる。石炭層を覆う表土を軽々と持ち上げる。ダンプトラックHD785は、土煙を上げながら黙々と走る。大きな背中に、土砂を載せて。熱帯の空気がカラダにまとわりつく炎天下も、無数の星が瞬く夜も。24時間、休みはない。

どんなに丈夫なカラダでも、働くうちに疲れがたまる。それは、人間も機械も、同じである。だから、この鉱山の機械たちは、健康診断を受けている。しかも、カリマンタン島で働きながら、一日に数回、日本の工場で受診する。なぜ、そんなことができるのか。秘密は、ITを使った健康診断システムにある。

人間にたとえれば、体温、血圧、脈拍、最近かかった病気の履歴などを、センサーが自動チェック。集中制御システムに送られてくるデータを、日本のエンジニアが診断する。メンテナンスが必要な所や、消耗部品の寿命を予知することができるようになった。早期発見、早期治療。大病になる前に治すことができれば、入院も短くてすむ。これが、鉱山機械の最先端医療なのだ。

オペレーターたちが、仕事を終えて運転席から降りてきた。バリ島やジャワ島から、働きにきている者も多い。石炭鉱山で28年働いているという一人が、教えてくれた。「石炭は、はるか太古の植物が堆積して地層となったもの。人間は、その恩恵を、受けている」。人のよさそうな笑顔の奥に、鉱山で仕事をするプライドが、のぞいた。いま、さまざまな国の鉱山で働くコマツがいる。どの現場にも、鉱山を愛し、いっしょに汗を流す人たちがいる。ふと、彼の手を見た。その大きな手も、働き者の手をしていた。

社会のために働く道具であること。

朝日新聞    2005年11月30日 (水)
読売新聞    2005年11月30日 (水)
但し、西部本社版のみ    2005年11月28日 (月)
日本経済新聞    2006年1月17日 (火)