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特集:ICT建機の現在と未来

ICT建機に組み込まれた技術

熟練オペレーターが眼で見て状況を予測しつつ行う操作を、機械が目隠し状態でやるところにマシンコントロール 技術の難しさと技術屋の醍醐味があります
開発本部  建機第一開発センタ(粟津)
情報化建機開発グループ  チーム長
下條 隆宏
開発本部 建機第一開発センタ(粟津)情報化建機(ICT)開発グループ チーム長下條 隆宏

ブルドーザーの操作は建機の中でも難しいと言われています。

車体が振動・傾斜する中、オペレーターはブレード(排土板)の高さや角度を調整しながら、適切な速度で車両を進めなければなりません。ブレードを最初に土に接触させる際の「切り込み」という操作の巧拙で作業の効率は大きく変わります。また、押す土の量が増えるとスリップし整地面を荒らすため、ブレードを上げて負荷を逃がしながら、段階的に整地する必要もあります。一般的なブルドーザーでは、オペレーターはブレードの接地面を見ることができず、土質や地形等の状況を見極めながら一連の複雑な操作を行わなければなりませんので、一人前になるには通常3年の経験が必要と言われています。

このブレード操作をオペレーターに代わり、機械が自動で行う機能を「マシンコントロール」と呼びます。

これまでのマシンコントロール・ブルドーザーは、ブレードに加わる負荷やスリップを検出する機能がなかったため、機能が発揮できるのは最終段階の整地作業に限られていました。仕事量でいえば10%から20%位が自動化されていただけです。この粗掘削から整地作業まで一連の作業を、全て自動で制御する世界初の技術を搭載したのがD61EXi/PXi-23です。オペレーターは車両を前進・後退させるだけで、粗掘削では車体がスリップしないよう自動でブレードを調整しながら掘削し、設計面に近づくと整地制御に自動的に切り替わって高精度な仕上げを行います。この全自動制御は負荷やスリップの検知により初めて実現しました。同時にGNSSアンテナを運転席上にビルトインすることで配線の断線や、障害物との接触による破損、毎日のアンテナ取り付け、取り外し作業もなくなりました。

ベースマシンD61のICT化では、熟練オペレータ並みの操作を再現するのに苦労しました。D61は、車体が前後方向に1度傾くとブレードの刃先が70mmずれます。操作中、熟練オペレーターは視覚や身体に伝わる揺れ等から常に車体の姿勢変化を予測して、最適なブレード操作を行います。このような熟練オペレーターの操作を再現するため、車体の姿勢認識を担う「iMU+」センサーや、ストローク(伸縮量)の検知機能を備えた油圧シリンダー「MSシリンダー」(後述)等について20以上の設定値を調整し、緻密な試験を行う繰り返しが、完成までの約1年間続きました。

中型ブルドーザーのメインマーケットである北米で、お客さまの協力を得て行ったユーザーテストは、機械性能を練り上げることはもちろん、開発技術者である私自身が機械の使い方を習得する貴重な機会にもなりました。法面(斜面)工事にブルドーザーが使われることも日本では想定外でした。一見ありふれた斜面も、GNSSとiMU+によって車体の姿勢や進行方向を正確に認識させ、きれいな斜面に整形させるのは容易なことではありませんでした。

D61EXi/PXi-23は既に量産に入りましたが、開発技術者としての次の課題は、お客さまの施工現場の前工程から最後の測量までの包括的な施工方法の改善です。現場のブルドーザー一台だけの効率を高めるのではなく、工事全体の効率を上げれば更に大きな効果が得られます。そのためのアイデアを模索しています。

建設機械のICT化・自動化が進むほど、油圧シリンダー等のキーコンポーネントは更に高い性能・精度が要求されます。
開発本部  油機開発センタ(小山)
制御機器開発グループ
影山雅人
開発本部 油機開発センタ(小山)制御機器開発グループ チーム長<br />影山 雅人

「キーコンポーネントの自社開発・自社生産」の一翼を担う油機開発センタは、「世の中にないものは自分たちで創り出す」風土が特に強いと感じています。その代表例の一つが、コマツが独自に開発したストロークセンサー付き「MS (Mechatro Smart) シリンダー」です。このシリンダーには我々が約20年間培ってきた油圧機器の電気制御技術と、約10年に亘る油圧機器用センサー技術開発の蓄積が織り込まれています。

建機の油圧シリンダーは厳しい作動環境下で大出力を発揮することに加え、油圧ショベルではブームの根元からバケットの刃先まで10メートルもあるため、作業機を正確に動かすにはミリメートル以下の計測精度が要求されます。

開発にあたって私たちがまず考えたのは、長い年月をかけて作り込まれたシリンダー自体の耐久性・信頼性を、センサーを装着することにより損なわないことでした。また、将来必須となる他機種への展開を容易にする必要もありました。そのため、シリンダーの基本構造を変えずに組み込めるセンサーを一から開発することにしました。しかし、世の中にないセンサーの開発は、苦労の連続でした。

例えば、シリンダーの基本構造を変えないためには、鋼製のシリンダー・チューブの内部に磁石を設け、外部のセンサーで磁力を検知するという、理論的には不可能な仕組みを実現させる必要がありました。

「世の中の発明は、”必ずできる”と信じた人が作ったからできたんだ。できないと思ったら絶対にできないぞ」という上司の声に励まされ、試作とシミュレーションを繰り返したところ、ある条件・形状であれば、鋼製のシリンダー・チューブを突き抜けた微弱な磁力を検出できることが判明しました。

やっと検出できた磁力ですが、それだけでは誤差が大きくて使えません。磁性体の中では磁力は光速で伝達しないこと、高精度の検出の為には、磁性体の中に発生する微細な電流まで考慮し、その為に生じるわずかな遅れも評価する必要があること等、MSシリンダーの開発は新たな課題への挑戦の連続でした。

その他にも、センサーの小型化、高精度化のための開発はもとより、建機用シリンダが使われるあらゆる環境を想定した試験装置、センサーを量産する為の校正装置、検査装置等、すべて新たに考案する必要がありました。10年間に及ぶ「MSシリンダー」の開発には、「より高い性能・精度のキーコンポーネント」を目指して努力を続けた20名以上の技術者が携わっているのです。

コマツらしく、一人ひとりが個性を発揮し、チームワークを強化して、お客様と共によりよい建機へ育てていきたいと思います
開発本部  建機第一開発センタ
油圧ショベル開発グループ  主任技師
西村貴和
開発本部 建機第一開発センタ 油圧ショベル開発グループ 主任技師 西村 貴和

現在、私たちが開発しているのは、ICT建機の第2弾となる、マシンガイダンス機能(国土交通省 近畿地方整備局 近畿技術事務所ウェブサイトへ)を備えた油圧ショベルです。

油圧ショベルは他の建設機械と比べて、複雑な動きをこなします。それだけ自動化も困難なので、まず第一歩として、操作自体は手動ながら、操作を支援する情報をオペレーターに提供する「マシンガイダンス機」の市場導入を目指しました。開発中の車両は既に現場稼働を想定した最終試験の段階に入り、量産化までもう一息です。

カーナビゲーション同様、マシンガイダンスはオペレーターの負担を軽減し、作業精度・効率を向上させるものです。現在の地形や目標設計面の表示方法や、目標設計面までの操作ナビゲーション等を見やすくするため、モニターの画面を大きくしたいのですが、画面を大きくするとオペレーターの視界を遮る恐れがありますし、重くなって振動により故障するリスクも高まります。そこで、キャブ開発センタでモニターの装着位置を徹底的に検討し、ICT開発センタで耐久テストを行って、モニター本体に大幅な改造を施しました。さらに、作業機の刃先と設計面との距離をビープ音でオペレーターに知らせる機能も付加しました。

従来のメカニズム(機械の構造)中心の商品開発と異なり、ICT建機はアプリケーション(機械の使い方)中心の商品開発となりました。2009年にスタートした開発プロジェクトも、立ち上がり時から、開発・生産部門だけでなく、機械の使われ方に精通したプロダクトサポート部門、そしてICT専門メーカーなど、幅広い関係者が集結して開発に挑むスタイルをとりました。関係者が国内外の各拠点に散らばっているのも初めての経験で、情報の共有化とコミュニケーションの重要性を再認識しました。

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全自動制御機能を備えたマシンコントロール試作油圧ショベル(参考出展)の動画(2013年4月、Bauma)。片手を離しても、設計面をなぞるようにバケットが動作します。

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